『え、まじか。場所は?タクシー呼べない?』
そして嫌な予感がした。
家にいないということはつまり。
俺は気付いたら、両手で顔を覆い隠していた。
肩を何度も叩かれ近藤さんの方へ顔をあげると、メモ紙には「飲んでる?」という文字が。
俺は首を横に振った。
今日は一滴も飲んでいない。珍しくさっきもココアだったし。
そして近藤さんは、30分後に駅前のコンビニにいるよう電話口の彼女に告げた。
「里香、今国分寺の…友達んちいるんだって」
― おいおい今の間なんだ。
友達って?誰?まさかさっきの体育会系の男?
俺はそいつではなく、集団にいた唯一の女の子の家であることを切に願った。
「じゃあ車出してくるわ。明日使う予定ないから、夜までに返してくれればいいから」
剣士は近藤さんがみなまで言わずとも、すっと立ち上がって車のキーを手に取る。
「別れるにしても、絶対綺麗に終わらせてくださいね。これがまたトラウマになったりしたら、ほんとに許しませんから」
凄んだ彼女に、俺は頷くのが精いっぱいだった。
こんなに迫力のある子だったっけか。
「心配かけてごめんね」
俺が謝ると、仕方ないなぁ、みたいな顔で、近藤さんは笑った。
そんな近藤さんを見つめる剣士は、俺の知らない顔だ。
里香は2人が中途半端な関係だと言っていたが、それには剣士なりの理由があるとしか思えない。
剣士は女癖は悪いが、人としては俺みたいな最低な奴ではないから。
剣士なりに、近藤さんを傷つけないようにしているんだろう。
剣士から借りた車のハンドルを握った俺は、何から話そうか、なんて考えながら、とにかく国分寺へと急いだ。

