「先生、まじでそれは里香にはいっっちばん、やっちゃいけないやつです」
「最低です」
潤んだ瞳で、近藤さんは俺を軽蔑するように見やった。
「里香ちゃんの元カレの話、なにも聞いてなかったんだろ?」
剣士が頭をかきながら話し始めた話に、もうこれは取り返しがつかないことを悟った。
彼女がずっと抱えていたトラウマを、まさか俺自身が再現してしまったというわけか。
「最悪だ…」
「最悪なのは先生ですよ!やっと里香が前向けたのに!」
喧嘩しているんじゃなかったのか。
女同士の友情って、俺にはよくわからない。
近藤さんはついに泣いていた。
しかし彼女の言う通りだ。
最悪なのは、間違いなく俺。
「とりあえずもう全部話せよ。それで決めるのは里香ちゃんなんだから。てかそもそも来るとこ間違ってんだよ、お前は~」
こめかみをグリグリとなぶられると、痛みのせいだろうか。
だんだんと正気を取り戻していった。
「…電話、出てくれないんだよ」
「だろうね」
そう言って近藤さんが、スマートフォンの液晶をなぞりはじめた。
『あ、里香?私だけど。今家?』
どうやら彼女が電話すると、2コールほどで応答した様子である。
まぁそりゃあそうだ。
あんなことした男の電話に、出るはずがない。

