ラブホテルのベッドなんて、それこそ何年ぶりだろう。
幸いなのか、1部屋だけ空いていた、やけに広い部屋。

部屋に入ってコートを脱いだ途端、ふかふかのベッドに押し倒された私の上には、峰岸くんがいる。

「なんでいっつもそうなんだよ。いい加減幸せになってよ」

お酒には強い彼だが、飲むとすぐに顔が赤くなる。
今も耳まで真っ赤だ。

シルバーグレーのネクタイを片手で解いて、Yシャツの第二ボタンまで開けた彼は、いつものふざけた彼とは違う。
私の背中に手を回して、ファスナーを下ろすと、もう一度目が合った。

「いい?」

何も答えない私に、次第に近づいてくる彼の薄い唇。

目を瞑ってしまったら、きっと楽になれる。
同じ罪を背負って、彼と向き合える。

なのにやっぱり私は、自分だけは綺麗でいたいみたいで。

「ごめん!」

顔を背けてしまった。

しばらくそのまま静寂が続くと、大きな溜息とともに、峰岸くんが隣に倒れこんだ。

「覚えてる?前も同じことあったの」

天井を見つめたまま、彼がぽつりと呟く。
必死に記憶を辿るが、はっきりとは思い出せなかった。
ただ、私の上に跨った彼を見たとき、初めてじゃないような気はしたが。

「ごめん、はっきりとは…」

私の言葉に彼は軽く笑って、6年前に同じことがあったと教えてくれた。

「元カレもなんか同じような理由で別れたでしょ。同期会でその話したとき、今日みたいに桃が大泣きして」

あぁ。だんだんと記憶が蘇ってきた。
あのときも、私はみんなの前で大泣きして、まだそれほど飲み慣れていなかった日本酒を、がぶがぶ飲み干したような。

「そうそう、西村と一緒に日本酒めちゃくちゃ飲んで潰れてさ。その帰りだよ、今日みたいに2人になって」

「なんかちょっと思い出したかも」

「あんときも桃は寸前で、やっぱごめん!とか言ってさ~。ほんと俺じゃなかったら、無理矢理やられてるよ?」

それは間違いない。
でもまさか自分が、酔った勢いに任せて、付き合ってもいない男性とホテルに入ったことがあるとは、今の今まで知らなかった。
都合の悪い記憶だから、勝手に書き換えられていたのだろうか。