へろへろの私たちが店を出たのは、0時少し前。

「桃のことは、俺が責任持って送りますので!!」

そう言って敬礼をしたのは、峰岸くんだ。
峰岸くんとは唯一家の方向が同じで、みんなで飲みに行けば、一緒に帰るのが当たり前だった。

「峰岸~桃ちゃんに変なことすんじゃねーぞ!」

舞もべろべろに酔っぱらって、西村くんに支えられながら、そんな暴言を吐く。

「お前こそ西村に捨てられんなよ!」

峰岸くんもまた余計なひと言を言って、ぎゃーぎゃー言いながら、私たちはそれぞれの帰路についた。

終電の車内はものすごい混雑で、立っているのもやっとな私は、それに甘んじて背後に立つ峰岸くんに体を預けていた。

「桃重くなったな」

「うるさい」

ぐらっと電車が揺れると、その瞬間に彼は、私の体を包んで支えてくれる。
もう何度かそんな場面があった。

「昔っからガード弱いんだよな~」

「へ?」

「俺じゃなかったらやばいよ、絶対持って帰られるよ」

「峰岸くんじゃなきゃやらないよ、さすがに」

言ってから、ちょっと誤解を招く言い方だったかも、なんて思ったが、もう10年近い付き合いだ。
今更どうこうなんて、あるわけもない。

「俺次だけど。ちゃんと1人で帰れる?」

「大丈夫。私もあと4つだもん」

顔は見えなかったが、声色としては割と反省したような感じで、彼は「今日はほんとにごめん」と謝った。

「別にいいよ。いずれわかることだったと思うし」

またぐらっと電車が揺れて、私の体は彼の腕の中に収まった。
彼の降りる駅だ。
乗り換えの駅でもあることから、割とぞろぞろと人が降りていく。
が、彼はまだここにいる。

「え、峰岸くん着いてるよ」

「んー。わかってる」

そう言いながらも、降りる気配のない彼。
とうとうドアの閉まるメロディーが、ホームに流れ始めた。

「おーい、峰岸くん」

すると彼は、私の右手を掴んだ。

― 本当は、すぐにわかった。
振り払おうと思えば、振り払うこともできた。
それなのに私は、されるがままに、一緒に電車を降りてしまったのだ。

電光掲示板から、電車の時刻が消える。

「放っておけないんだけど」

真剣な眼差し。
なにか思い出しそう。
なんか前にもこんなこと、峰岸くんとあったような気がする。