「もう帰りたい…」

皆が受け止めてくれると知っているからだろう。
私はそれからずっと、子供みたいに泣きじゃくっていた。

「桃~お前ほんと昔から男見る目ねーなぁ」

合流した西村くんは、まるで一緒に泣いてくれそうな顔をして、おしぼりで無造作に涙を拭ってくれる。

「メイク取れちゃうよ~…」

「あぁ!そっか」

パチンと軽く、舞が西村くんの腕を叩いた。

「にしても、彼氏イケメンだったな」
「それは思った」

所々で聞こえたそんな声に、舞が「うるさい!」と一喝すると、彼らは西村くんに向かって手を合わせる素振りを見せる。

こんなときでも、彼らがいてくれるから、少しは私の気持ちも落ち着いていた。
思う存分泣かしてくれる、というのもあったと思う。

「ごめんな、俺がぶつかったばっかりに…」

「ほんとそれだよ」

峰岸くんが突進さえしなければ。
気付かずに済んだかもしれないのに。

でもそれはそれで、後でもっと傷つくことになっていたのかもしれない。
現に私と悠太は、あの初詣から1ヶ月。一度も顔を合わせていない。

私じゃない。
悠太が、「仕事が忙しい」と毎回断りを入れてくるのだ。
それなのに今。
仕事が忙しくて彼女に一目会う時間もなかった彼が、なぜ生徒の人妻とホテルから出てきたのか。

脳裏に浮かぶのは、あの夏の日の悪夢だった。

「とりあえず飲め!な!」

誰が言ったのか忘れたが、その言葉で吹っ切れた私は、浴びるようにたらふくアルコールを摂取し、同期たちもそれはそれは大量に飲んで。
私がお酒に強くなったのは、彼らに鍛えられたからだということを思い出した。