西村くんは、今日の主役の亜紀先輩と、入社してすぐに付き合い始めた。
舞が略奪したってわけではないのだが、あまり期間が空いていなかったこともあって、周囲はそう勘違いしている人も多くて。
おそらく彼女が転職したのは、そういうことも理由の1つだったと思う。

「それにしても亜紀先輩、よく私呼んだよね~」

舞はグレーのファーのついた手袋の中に、白い息を吐いた。

「先輩、私たちのこと可愛がってくれてたじゃん。少し前も飲み連れて行ってくれたし」

「まぁそうだけどさ。なんか西村と結婚します、なんて言いにくくて」

なんて言いながら、しっかり左手の薬指に指輪をはめてくるんだから、舞も大した女である。

コツコツとヒールを鳴らしながら会場に到着すると、すでに懐かしい面々がそろい踏みであった。

「え、桃じゃん!久しぶり~」

男のくせして平気で抱きついてくるこの人は、同期の峰岸くん。
同期の間で私はなぜか、名字から1字を取って“桃”と呼ばれていた。

「桃、元気だった?可愛くなったね?元気だった?」

「同じこと2回言ってるから」

盛大な笑い声が、私たち包む。

同期は総勢12名。私や舞も含めて、そのうちの半分くらいはすでに退社しているが、それでも年に1度は集まる、割と仲の良い仲間内だ。

「峰岸は昔っから、桃が可愛くてしょうがないんだよな~」

12名のうち、高卒の私と舞以外は、大卒の男性しかおらず、それはそれは可愛がられていて。
そんなところも、居心地がよかった。

「あ、てか舞!西村と結婚するんだって?」
「そうだ!おめでと~やっとだな」

話題は舞と西村くんの結婚話に移って、彼らはまるで自分の妹が結婚でもするかのように、だらしない顔でそれを祝福した。

そして私は痛感していた。
26歳。これから周りには、こういった話題ばかりがあがるのだろうと。