「あれ、桃田さん今日もう上がりじゃない?」

「え!」

驚いて時計を見ると、確かに16時を過ぎていた。

「すいません、ぼーっとしてました。お先失礼します!」

「はーい。気を付けてね~」

先輩の言葉を背に慌ててロッカーに駆け込み、制服を脱ぎ捨てる。
今日は18時から、以前勤めていた会社の先輩の結婚パーティーに参加する予定で、早上がりを申請していたのだ。

美容院で髪をセットしてもらっている間、直す時間のなかったメイクを直して、なんとか予定通りに準備が完了した。
それにしても金曜日とはいえ、平日の夕方からのパーティーとは、慌ただしくて仕方ない。

「桃ちゃーん。こっちこっち~」

同じくめかしこんだ同期の舞と合流すると、彼女もまた、仕事がまったく片付かなかった、なんて口を尖らせる。
しかしそんな彼女の左手が、一瞬きらっと輝いた。

「え、待って。その指輪…なに?」

私の言葉に、にんまり笑った彼女。

「プロポーズされたの」

「えぇ!?」

地下鉄のホームに反響した私の驚きの声に、彼女は幸せそうに笑った。

「え、相手は?西村くん?」

「うん。もう付き合って4年だもん、やっとだよ」

西村くんというのも私たちの同期の1人で、舞は入社当時から彼を気に入っていた。
当時18歳の私たちには、22歳という大卒の同期がいやに大人びて見えていて、西村くんはその中でも特にしっかり者の、頼れる存在。

「今日は?来ないの?」

そう言葉にしてから、はっとした。

「あぁそうか…」

「そ、元カノの結婚パーティーにはさすがにね。私もいるし」