レフティ


「うん、やっぱ里香に似合うね」

「ありがと~や~かわいい~」

当日の朝、彼の家でなんだかんだ着せてもらった着物は、白地に色とりどりの花が描かれた綺麗な振袖。
帯やらなんやらのコーディネートはすべて彼に任せたわけだが、うまいこと赤や黒の差し色が効いていて、それもまたセンスが良くて。
新年早々、私の気分は最高潮であった。

「嬉しい。振袖着たの成人式ぶり!」

姿見の前で右に左に体をひねっては、私は浮かれ気分だった。

「子供か」

彼は自分の着物を着付けながら、横目に私を笑ったが、その顔はまたいつもと違う。
最近の彼は、なんだかまるですごく自分が大切にされているかのような、そんな錯覚を起こさせる顔で笑うのだ。

「にしてもすっかり忘れたね。着物の着方」

「いやそれは悠太が…!」

付き合い始めたあの日以降、彼は私に、もう着付け教室には来るなと言った。
本人いわく、色々と気まずいらしい。

私としては、それはそれとして通い切るつもりだったのだが、先生に断られてしまってはもう何も言えないから、仕方なく諦めたのだ。

「里香は気まずくないわけ?こんな距離に俺がいるんだよ?」

そう言って彼は、あのときのように私の背後から手を回した。
わざと耳元で喋って、しまいにはあのとき同様、うなじに冷えた指を這わせる。

「…っもうわかったから!早く行こうよ」

ケタケタと、してやったりな顔をした彼。
悔しいが、紺色の着物と羽織が、艶のある黒髪と白い肌によく似合っている。

これも彼が実家から持ってきてくれたという着物用のアウターを羽織って、私たちは手を繋いで、明治神宮へと向かった。