レフティ


「明けましておめでとうございます」

石油ストーブのじんわりとした温かさに包まれて、新年の挨拶を交わす桃田家一族。
なんと従姉の和子ちゃんが結婚することになったと言って、旦那さんになる男性がサプライズで登場した。

「やっと和子もお嫁に行けてよかったわぁ。里香ちゃんもそろそろかしらね?」

和子ちゃんは私の4つ上だから、今年ちょうど30歳。
やっと、なんて言われるような年齢でもないが、伯母さんは嬉しそうにそう言った。

悠太も言っていたが、やはりこの歳になれば、二言目には結婚、と言われるのが宿命だ。

「いや私はまだ…」

「そうよ。この子ったら毎週毎週、週末になれば帰ってこないくせに、彼氏はいないなんてねぇ。どこで何してるんだか」

ここぞとばかりに、母は日頃の私への愚痴をぶちまける。
母は結婚とは言わないが、やはりふらふらしている私がどうにも気がかりなようだ。

「はいはい」

私は面倒になって、リビングから居間の和室へと居場所を移した。
スマートフォンのロックを解除すると、彼からのメッセージが届いている。

【あけましておめでと~今年もよろしくね】
【明日東京帰るよ。実家で里香に似合いそうな着物見つけたから、持って帰るね】

2通のメッセージのあとには、るんるんなパンダのスタンプが送られてきた。

そのパンダと同じくらい、私の胸にも音符が躍る。

【あけましておめでとう!こちらこそです】
【着物ありがとうございます~楽しみです。いつ初詣行けそうですか?】

なぜかいまだにメッセージは、他人行儀な敬語になってしまう。
それは彼を、“山辺先生”と登録したままだからなのだろうか。

そうして私たちは、明後日、明治神宮への初詣の約束をした。