「帰ってきたら、一緒に初詣行きたい」
なんだか彼がどこかへ行ってしまいそうで、私はなんでもいいから約束を取り付けておきたかった。
すると私の言葉に、彼はくしゃっと笑って、
「いいよ。じゃあ一緒に着物着てこっか」
なんて言うものだから、私は寝転ぶ彼の胸に顔を埋めて、必死に涙を堪えた。
彼といるとたまに、どうしようもなく幸せで、不安になって泣きそうになる。
それは彼が彼氏になったあの日からずっと、私の胸の真ん中にある疑惑のせいだと思う。
「意外と寂しがり屋?」
ふふ、なんて低い声で笑ったその声も、私の髪を優しく撫でる大きな手も、いつかあっという間になくなってしまいそうな気がするんだ。
それはきっと、彼が何に対してもいやに無頓着だから。
例えばこの部屋もそう。
必要最低限の家具があるだけで、漫画とか雑誌とかCDとか、そういったものはどこを見回してもない。
食器ですら、自分用の茶碗1つと、結婚式の引き出物で貰ったという大皿が2枚、それにマグカップが1つというレパートリー。
高価であろう着物も、量販店でよく見かけるプラスチックケースに収納されていたのだから、驚きだった。
それらはまるで、もうここを出て行くのが決まっているかのように、私の目には映った。
「…好きだから。早く会いたいなって」
私がそれを言ったところで、彼の中の何が変わるわけでもないだろう。
ただ、言わなかったことを後悔したくなかったから。
「え、珍しく今日は可愛いね」
いたずらっぽく笑う彼だが、あまりに私の顔が赤かったせいか、彼まで頬がピンク色に染まっていた。
そんな彼の体温からも、部屋に響くキスの音からも、もう私は絶対に逃げられない。
馬鹿みたいに、彼しか見えていないのだ。
「もっかい言ってよ、さっきの」
「へ?」
「なんで早く会いたいんだっけ?」
こういうときばっかり、彼は眉を下げて、まるで愛おしい人を見るみたいな目で、私を見つめる。
もちろん私は、それに逆らうことなんてできないわけで。
「…好きだから」
ふっと息を吐いた彼は、もう1回、なんて耳元で囁く。
「もう言わない!」
「えーなんで?言ってよ、何回も」
深い口づけで浅くなる呼吸と、次から次へと押し寄せる快感に、もう頭がついていかなかった。
ただただ、ずっと心の中でリピートしていた言葉。
「好きなの。ずっと一緒にいて」
私の言葉のあとすぐに、ぎゅうっと一層強く抱き締められて、目の前が真っ白になりかけたとき。
「俺も。里香が好きだよ」
熱を帯びた彼の声と切なげな表情は、激しく私の心を揺さぶった。

