というか、あいつだってもうそろそろ潮時だ。
恋だ愛だで世間は溢れかえっているが、“古き良き”伝統文化を守るべき家に産まれてしまった彼がそれを楽しめる時間は、もうあとわずか。
「で、あなたは俺と会うのに、それで頭がいっぱいだったのかな?」
「や!そんなことはないですけど…」
だから俺にできることは、ただ1つ。
「余裕だね~悲しいな~」
「違うって!ほんとに、楽しみにしてたから!」
俺といるときは、笑顔でいてほしい。
それは俺のわがままなんだろうか。
顔を近づけただけで真っ赤になって、それを隠そうとマフラーに顔を埋める。
俺がそれをぐっと顎まで下げると、目をぱちくりさせた後、慌てて顔を逸らした。
「顔赤っ」
「うるさい」
彼女に照れ笑いをさせるのは、いつだって自分がいい。
こんなに誰かを自分だけのものにしたいと思ったのは、彼女が初めてだ。
「ほら、イルミネーション行こうよ」
ポケットの中の手を引き寄せると、簡単に彼女はよろけて、俺の腕に頭をぶつけた。
ふわっと香るのは、やっぱり優しい花の香り。
痛いよ、なんて言いながらはにかむ姿は、俺の心を掴んで離さないから、困ったものだ。
一体いつの間に、こんなに好きになってしまったんだろう。
ずっと一緒にいれたらいいのに、なんて叶いもしないことを、つい願ってしまう。
― 剣士だけじゃない。
俺に残された時間だって、あとわずかだというのに。
それをわかっていながら、彼女と付き合うことを選んだ自分は、ひょっとしたら剣士よりもずっと、残酷で下衆な男のような気がした。

