レフティ


「…美沙と。喧嘩したの」

ほらやっぱり。
俺に隠し事しようなんて、百年早い。

「なんで?なんかあったの?」

瞳をうるうるとさせて、ぽつりと彼女は言った。

「私だけ、幸せになっちゃったから」

今にも泣き出しそうな彼女。
そりゃあ、あれだけ仲の良かった友達と揉めたとなれば、誰だってやるせない気持ちになるだろうし、その気持ちは、たぶん大人になったからって変わるものじゃない。

だから、彼女の痛い心は、もちろんわかる。

それなのに俺は不謹慎にも、今彼女が俺といることが幸せなんだと思うと、急に胸が苦しくなった。
今すぐ抱き寄せて、彼女をどうにかしてしまいたいとさえ思う。

「剣士?」

「え、なんか聞いてるの?」

彼女はこうやって墓穴を掘るタイプだ。

「聞いてないけど、なんとなく」

俺の言葉に、しまった、という顔をしながらも、言葉にしたからなんだろうか。
さっきより彼女の顔は、少しだけ明るくなった。

「なんかその…飼い殺しっていうか。中途半端な関係らしいんだよね、あの2人」

俺にバレてしまったことで吹っ切れたのか、彼女は、剣士と近藤さんの現状を話し、近藤さんがやけを起こしていると言った。

そうは言われても、剣士の女癖の悪さは、今に始まったことではない。
確かに俺も、もしかしたらもしかするのかも、なんてあの2人を見て思っていたが、すでに関係を持った上であの感じなら、たぶんもう難しいだろう。

剣士は、なかなか自分に落ちない子にしか、好意を抱かない。
それで付き合うことができたって、他の女を切ることもしないし、すぐ他に目移りもするし、俺からしたら、特定の子を作らなければ、こんな面倒なことにならないのに、なんて思ったりもする。

剣士は昔からそういう奴なのだ。
はっきり言えば、俺以上のゲス。

「剣士とのことはともかく…」

しかし俺はあえて、そんなことは話さなかった。
俺以上のゲスとはいえ、俺自身人のことを言えたような男でもない。

「近藤さんとは、少し時間置いた方がいいんじゃない?たぶん今は何してもだめだよ」

「やっぱりそうだよね…」

しょんぼりと肩を落とす彼女。

何か力になってあげられればいいけど、剣士に何か言ったところで、あいつが変わるとも思えないしな。