「里香?どした」
付き合って1週間。
狙ったわけでないが、ちょうどぴったりその日に、俺は彼女を呼び出していた。
てっきり、いつも俺に見せる“嬉しさを必死に堪えた顔”で待ち合わせ場所に来るのかと思いきや、彼女は随分と沈んだ顔で、そこに立っている。
「…なんもない。寒いだけ」
お得意の鼻までマフラーに埋めて、上目遣いに俺を見やった彼女。
その八の字の眉毛は、今日も困り顔を助長させている。
「言いな。見ればわかるんだから」
俺はポケットから左手を出して、彼女の右手を掴んだ。
そしてそれを、左のポケットに再びしまう。
「は、はずかしいんですけど…」
「言わないとこのままだよ」
俺はそう言って、そのまま目的地に向かって歩き出した。
ちらっと隣の様子を伺うと、彼女は頬を赤く染めて、そのくせ一丁前に、ポケットの中の俺の手に応えるように、ぎゅっと手を握り返した。
そのぎこちない小さな手が、なんとも愛おしい。
こんな自分、気色悪い。
「可愛いじゃん」
耳元でそう囁くと、またも色気のかけらもない声を上げた彼女だったが、もう俺も末期だ。
それすら可愛いなんて思ってしまうのだから。
「ほら。早く言いなって」
危うく俺の方が彼女のペースに呑まれそうになって、慌てて話題を戻した。
すでに目的地は、もうすぐそこだ。
「……悠太に言うことじゃないっていうか…」
マフラーの中で、まだぶつぶつと何かを呟く彼女。
しかし俺は、彼女が嘘をつけなくなる方法を知っている。
「いいから」
足を止めて、じっと彼女を見つめる。
こうすると彼女は、瞬きもせずじっと俺を見つめ返して、次には胸の内を話すのだ。

