『俺たち、付き合うことになったから』
遅れて行った朝食会場で、“私の彼氏”になった悠太は、美沙と鎧塚さんに開口一番そう言った。
案の定、2人は目を丸くして驚いたわけだが、美沙は思ったよりも、それを喜んでくれなかったのだ。
その時点で、この2人に何があったのかは、大体想像がついていた。
だからあえて、2人の関係の進展を、私からは尋ねずにいたのだ。
しかし、旅行から帰った次の日の夜。
美沙から呼び出しがあった。
『この前はごめん』
会って早々に彼女は、そう頭を下げた。
『謝ることじゃないよ』
誰だってそうだ。
私だってきっと逆の立場だったら、素直に喜んであげられないだろう。
鎧塚さんとのことを話したいのか、それとも私には話したくないのか。
どちらともわからなかったから、そのあと私は、何も言えずにいた。
『……剣士くんとね、もう何回もしてるの』
『…うん…』
そうして美沙は、私の家の前で泣きながら、鎧塚さんとの顛末を語り出したのだ。
どうやら旅行の前から、2人はそういうことになっていたらしいが、好きとか付き合うとか、この関係がなんなのかとか、具体的な話はなかったという。
あの旅行の夜も、やっぱりそうなったものの、それ以上の話はなかったらしい。
『正直、ちょっといい感じかなって思ってたんだよね。旅行行ったらなんか変わるかなって、期待もしてたし』
側から見ても、確かに2人の関係は秒読み状態に見えていた。
本人が期待するのも、無理はない。
『そうだったんだ…』
だからと言って、私が美沙に言ってあげられることは、それくらいしかなかった。
例えば、私と悠太が同じような関係になっていたなら、同調することもできただろう。
もしくは私が彼に振られていたら、正直に気持ちを話してみたら?なんてことも、言えたと思う。
だが、今の私が何を言っても、それは美沙にとってはたぶん癪に障る。
逆の立場になってみれば、そんなことは簡単にわかった。
『ごめんね。だからって里香の幸せを喜べなかったのは、ほんと最低だなって思って…。ずっとつらい思いしてたの知ってるのに』
『もういいから』
泣きながら必死に話す彼女を抱きしめて、私たちの間のわだかまりは、取り除かれたと思っていたのだ。