時刻は21時50分。
会社の前に辿り着いた。
もうほとんどの人は帰宅しているのか、
なんだか薄暗く静かな会社内。
誰ともすれ違うことなく
無人のエレベーターへ乗り込むと、
私はすぐに最上階のボタンを押した。
ようやく社長室の前まで着くと、
直前でドアを開けようとした手が止まる…
---「桐山社長…すきです…。」--ー
理由は
中からそんな女性のセリフが
聞こえてきてしまったから。
その声は、
どこか聞き覚えのあるような声だった。
矢澤…さん?
思いもよらない状況に出くわして、
身体が………
硬直する………。
---"じゃあ、キスでもする?"---
ドアノブから手を離した瞬間に
半開きとなった扉。
私はすぐに踵を返したのだった…---。



