「……でも、おどろいた。聖たちが転校してるなんて。」

「姫凛がいなくなった頃からだね。」

「雛はあの人たちに会ったことあるの?」

「ないよ。」

これは真実に聞こえた。もしも雛とあいつらがあってしまえば、何かしらのことが起きてしまうかもしれないから。

あたしは明日、あのひとと話をつける。そのために、早めに寝る。

……許してくれるだろうか。離してくれるだろうか。

あのひとは”Master”だから、もしかしたら今のあたしの立場がなくなってしまう可能性だってある。

だけど、あたしは雛みたいに自由にいたいとおもったんだ。

それから、あたしを忘れたあのひととも、ちゃんと話がしたい。

あたしのことなんて分からないだろうけど、謝りたい。

あの人がこんなになってしまったのは、あたしのせいなんだ。

聖があたしのことを忘れたのは、あたしのせいなんだから。



……翌日。

「瀬吏たちにはまだ内緒だからね!」

そういって、雛を見送った。

家事をして、鍵を閉めて、駅に向かって歩く。

昨日休んだこと、怒ってるかな。

怒らせたらとてつもない位に怖いからなぁ。

そんなことをおもいながら、研究所につく。それから隣の本社の方に出向いた。

「……あれ、華宮さんじゃん。」

「あ。」

エレベーターに乗った途端、出会ったのはあの人の秘書である西内 彼方(かなた)
だった。

「類衣(るい)に会いに来たの?」

「…はい。」

類衣というのは、あたしたちの組織の…”Master”であり、あたしをここに置いている人だ。

そして……あたしの”許嫁”でもある。

「多分類衣、昨日徹夜してたから今寝てるよ」

そういわれながらついた、最上階にある社長室。

「ちょっとそこでまってて」

社長室の隣にある部屋にすわらされると、西内さんはどこかへ消えた。

しばらくすると、西内さんは戻ってきて、社長室に連れてこられた。

そして、またふらりといなくなった。

奥には、絶対の人がいる。

「姫凛、久しぶりだな」

色素の薄い金髪よりの茶髪に、くせ毛。そして、髪と同じ色の瞳。

整ったパーツが整いすぎた場所に配置してある。

この人は、今19歳である。

その若さで、父親から会社を譲り受けた。

「類衣さん、お久しぶりです」