いきなりの状況に戸惑っている私に、
「今、非常用ボタンを押すから」

社長はそう言うと、非常用ボタンを押した。

冷静な人だなと、私は思った。

「会社内にベルが鳴っていると思う。

音に気づいた誰かがメンテナンス会社に連絡してくれてると思うから、後は救助がくるまで待とう」

そう言った社長に、
「はい」

私は返事をした。

「もう少しこっちに寄ってきてくれないか?」

社長が言った。

「えっ?」

寄るって、社長のところにですか?

…そんなの無理に決まっているじゃないですか!

“王子様”と称されている彼の近くに寄ったら、私は気絶してしまうことだろう。

と言うか、心臓が持たないと思います…。

そう思っていたら、
「君の身に何かあると大変だ。

こう言う場合は離れない方がいい」

社長はそう言って、私の肩を引き寄せたのだった。