「瑠美!?瑠美!?」


想太が必死に叫びながら抱き起すと、彼女は微かに目を開いた。


目は暗く濁っていて、そこにはもうサファイヤの輝きではなく底なしの深海が横たわっていた。


「私ね……家出したの。お母さんとお父さんに入院させられそうになって」


ヒューヒューと荒い息を吐きながら彼女は呟く。


「どうせ死ぬことが分かっているのに、延命処置を受けて生き殺しにされるのがイヤだった。私はボロボロになりながら歩き続けて、最終的におばあちゃんの家に逃げた。おばあちゃんは私を家に帰そうとしたけど、私の必死の説得に折れて……そしてこっそり、私が残りの短い時間だけでも普通に学校に通えるように協力してくれた」


想太は何も言えなかった。


彼女の行動が正しいのかどうかは分からない。だが、もし自分が同じ境遇になったら……きっと自分も同じことをしただろうから。


「でもね……やっぱり、そんなに思い通りにはいかなかった」


瑠美は皮肉交じりの笑みを浮かべる。


「明るい未来がある若者たちと、少しずつ透明になっていく自分……それを意識すればするほど私はオカシクなっていった。もう昔みたいに人と接することができないんだって気づいた時は手遅れだった。……だから、私は想太君に強く惹かれた。普通に生きているのに普通とは違う貴方なら、私を理解してくれるかもしれないって」

「もちろんだよ! 僕は……僕は瑠美の為ならなんだってできる。僕は瑠美と同じだから……!」


想太が力強く答えると、瑠美は穏やかに笑った。


「だったら……ずっとずっと、私と一緒にいてくれるよネ?」

「ずっと一緒にいるよ! 僕は……僕は瑠美のことが好きだから!」

「ありがとう」


そう言って――


瑠美は震える手でポケットからナイフを取り出し、それを想太の胸に突き立てた。


「……えっ?」
 

呆然と見開かれた想太の瞳の中で、銀髪の少女が儚げに微笑む。


「私もダイスキだよ――想太君」



赤い空が暗転して。


全身が無数の煌めくガラスの破片となって、真っ黒な穴へ吸い込まれていく――