四之宮瑠美は、屋上のフェンス越しに下を静かに見下ろしていた。


激しい風に銀髪をなびかせ、その青い目はどこかこの世界ではない遠くを見ているように無機質で、その様はまるで絵画の一部分を切り取ったかの様に壮麗だった。


「想太君に会うまでは、よくこうして帰っていく生徒たちをここで眺めてた」


想太が近づくと、彼女は振り向かずに言った。


「楽しそうに笑い合ったり、恋人と手を繋いだり……そんなことをしながら帰っていくみんなが羨ましかった。普通の人の様に生きたかった。好きで私は私でいるワケじゃない。そんな真っ黒いドロドロで埋め尽くされることが分かっていても、私はここに来るのをやめられなかった……想太君と出会うまでは」

「……確かに瑠美は変わっているところはあるけど、でもまだ間に合うよ。四宮さんは僕とは違う。きっと努力すれば、みんなと同じ色になれ――」

「努力すれば? へえ……」


そこで初めて、瑠美は虚ろに笑いながら振り向く。


「私が病気でもうすぐ死ぬとしても?」


一瞬、風が止んだ。


心臓の鼓動が聞こえそうな静寂の中で、想太の唇が震える。


「ずっと、黙ってたんだ」

「言ってどうするの? ダレも幸せになんかならないし、寧ろ気を使わせるくらいなら静かに一人で死んだ方がマシ」


再び風が吹き乱れ、瑠美の銀髪が激しく波打つ。


「でも……想太君になら、言ってもいいって思ったの。貴方は誰にも見ることができない世界を持っている。貴方は現実に安寧して終わるような人間じゃない……私と同じ様に」

「何を言って……?」

「あの列車の中で、永遠に同じことを繰り返したいの?」


想太の心臓が激しく跳ね上がる。


「どうしてそれを……!?」

「私はずっと待ってるのに、ダメダメ想太は毎回同じ失敗をしてばかり……もう……待ちくたびれちゃった」


そして。



彼女は静かに青い目を閉じて……その華奢な体が屋上の床に崩れ落ちた。