想太と瑠美の仲はその日を境に少しずつ深まっていった。


瑠美はいつ見ても一人だった。あれほど整った容姿をしているし、決して人当たりが悪いわけでもなさそうなのに。


実際、何度かクラスの男子が彼女に話しかけているのを見た。


が、彼女は笑顔で対応しつつも少しでもプライベートに関わる話になると話題を逸らしてしまうせいで、長くは続かない。


彼女は笑顔の仮面を被りながらも、空間を断絶するほどに強い壁で常に覆われている様に見えた。


それ故に、彼女に話しかけようとする者は日に日に少なくなっていった。


瑠美は唯一、想太にだけは積極的だった。


彼女とは別の意味で孤独だった想太は、瑠美と接するようになってからはそれまで絡んでいた男子グループとは完全に疎遠になった。


元からお互い友達という認識がなかった為(実際、想太は彼らのことを『クラスメート』や『同級生』とは呼んでも『友達』と呼んだことはない)、想太が談笑の場にいなくなっても彼らはそれを話題にすらしなかった。


「僕ってもしかして、幽霊だったのかなって時々思うんだ」


昼休み。


教室の隅、二人ぼっちで昼食を取りながら想太が呟くと、瑠美はサンドイッチにかぶりつきながらモゴモゴと答えた。


「それふぁ、違うよ」

「どうして? 部活に形だけ所属してても、実際には誰にも認知されていない人を幽霊部員って言うじゃん」

「ユウレイって死んだ人のことでふぉ。想太ふぁまだ生きてる。だから幽霊じゃなくて透明人間」

「どっちも同じだろ……改めて言われると傷つくなぁ」


想太はそう言ってため息を吐いた。


が、ふと顔を上げると、サンドイッチを食べ終えた瑠美の瞳が微かに潤んでいるのに気づいて慌てる。


「ご、ごめん僕また変なこと言った!? 逆に僕が瑠美のこと傷つけたのかな?」

「ううん……ゴメン、想太は悪くないよ。ただ……幽霊と透明人間は絶対に違うもん」

「それが理由で泣いてるの……?」

「な、ナイテなんかないっ! もう食べ終わったから、私は自分の席に戻るわ」

「ちょっと、僕はまだ……はあ……」


瑠美は弁当箱をまとめて立ち去りかけ……ふと、うなだれている想太の顔を見つめて頬に手を伸ばした。


「ちょっ、何!?」

「ご飯粒、付いてる」


瑠美は人差し指で想太の頬から米粒を取り、ニッコリ笑った。


「今のって、ちょっとカップルぽかったかな?」

「え、いやそれはどうだろう……カップルならこんな薄暗い隅っこでご飯食べないし、そもそも僕なんかどう見ても彼氏には」


その瞬間、瑠美は人差し指に付いている米粒を自分の口に運んだ。


「これなら、どう?」

「ど、どうって……?」


狼狽する想太を楽しそうに眺めながら、瑠美は心の底から楽しそうな笑みを浮かべた。



「んーん、何でもない。……ただの人間ごっこ」