「カタストロフィとかジェノサイドって言葉を聞いた時、どう思う?」


放課後。


だいぶ太陽が傾き始めた頃合いに、想太は唐突に口を開いた。


「急にどうしたんだよ?」


それまで、流行りのゲームや好きな女の子の話で盛り上がっていたクラスメートたちの間に動揺が走る。


「いや、この前中二病の知り合いがそんな感じの物騒な単語を叫んでてさ。ダークマターとかアンドロギュノスとかも言ってた。でも、彼は多分深い考えを持ってそれを口走ったんじゃないと思うんだ。だとしたら、なぜ彼はその言葉を言ったんだと思う?」

「お前、さっきから何言ってんの?」


彼らの顔に徐々に影が差すのも構わず、想太は続ける。


「結論としては共感覚に過ぎないんだと思う。『ジェノサイド』って言葉には単体では何の意味もないけど、虐殺という意味が付加されることで中二病っぽい言葉だと彼は認識した。意味のない行為の為に、意味のある言葉を無意識に選別してるんだよ。これって凄く興味深いことだと――」

「想太、悪いが少し抑えてくれるかな。悪気がないからって何でも許されるわけじゃないよ?」


グループのリーダー格の男子が、貼り付けた笑みをこちらに向けながら言った。


「あ……」


そこで初めて想太は目を見開き、そしてゆっくりと俯く。


「ごめん……僕……」

「いや大丈夫。分かってくれればいいんだ」


彼はそう言って打ち切りの合図とすると、クラスメートたちも何とか気を取り直してまた談笑を始める。



俯いたままの想太の横顔を、いつの間にか夕日が照らしていた。