彼氏がいなくなった


「お母さん大丈夫?」

「ここ?」

 あてもなくふらふらと、頼りない足取りで前だか後ろだかよくわからないままに歩く俺の手を引いて、こっちだと誘導する人間が出来たのはいつからか。
 自嘲気味にこめかみを指で抑える俺に、多香は曖昧に返事をするから。言葉を探すのも面倒になった。

「うーん。控えめに言ってヤバい」

「マジでか」

「リアクションが昭和」

 手を顔の横に広げて驚く彼女は、その言葉に今度はこつん☆と昭和リアクションver.2をお見舞いしてくる。
 可愛いアイドルがするそれならいくらマシだったか。考えることが山ほどあるのに、考えたくなくてそれを放棄していると、現実逃避になるのだろうか。

 先生に母さんの容態の結果も聞かなければ、なんてぼんやりしていたら赤信号を渡りそうになっていて、多香に手を取られてハッとする。


「多香」

「んー」

 ど平日の夕方の空。青く澄んだそれに浮かぶ雲はやがてなんとも言えない色あいに変わって、実際夕方が来ると満ちるのはオレンジではないことに気がつく。水っぽい雲と、もくもくとした美味しそうな雲は悠々と空の上。

 きっと悩みの一つもないのだろう。


「多香」

「んだよお」

「俺この前誕生日だったんだけど」

「マジで?老けたね」

「プレゼントといってはなんですが一つお願いしていいですか」

 改まって言うほどでも多分ないんだろうけれど。そんな俺を知ってか知らずか、多香は来いよ、と手を自らに向けた。