「ここ?」
「そそ」
「ボロアパート」
「オブラートと言う言葉を辞書で引け」
父の仕送りを熨斗つけて返した手前、ローンを組んでいた一軒家の売却後幽霊が出るとか出ないとか水漏れがするとかしないとか。
一介の男子高校生のアルバイトでは何せ曰く付きの木造アパートに母を匿うことでいっぱいいっぱいだった。見かけはこうでも、父に精一杯の抵抗の末行き着いた楽園がここなのだから、俺には天竺に見えるのだが。
錆びれた階段を上り、扉を開ける。人がどうぞという前におじゃまー、と入り込んだ多香は、犬か猫のように人のテリトリーを侵略し、物の見事に俺が家で過ごす区画を突き止め、俺が普段お気に入りにしているクッションを抱き締めて腰掛けた。
パンツ見えそう、と顔を傾げるが現れたのは体操服ジャージ。そういやこいつスカートの下にジャージ履いてるんだった。
「ドラマ以外であんのな、こゆ家」
「あるある。お茶でいい」
「お構いなく」
真冬のアパート、暖房設備のまともじゃないそこは隙間風も凄く、結果電気ストーブ一つでなんとかするには燃費が悪い気もしないでもない。
やかんに水道水を入れ、火にかける。クッションを抱き締めていたまま部屋を物色していた多香を見下ろすと、アホ面ポニーテールが健気にも俺を見上げた。



