私は零くんをカウンター席に座らせ、すぐにコーヒーを淹れる。零くんがこのカフェの最後のお客さんだ。

最後ということは寂しい。しかし、最後にコーヒーを淹れたりするのが零くんであることはーーー嬉しい。

……あれ?私、今、『嬉しい』って……。

コーヒーを淹れる手が、止まる。止まらない胸の温もりに、泣きそうになった。

零くんともう一度出会った時から、もうとっくに感情は戻ってきていた。だってまた私は、恋に落ちたのだから。

砂糖とミルクがコーヒーに注がれる。認めてしまったからには、あふれる感情は激しくて、あっという間に苦いを甘いに変えていく。

もう苦いコーヒーなんて、どこにもない。

「…………ッ」

目から涙がこぼれた。これだから、感情なんていらない。言えない想いを隠さなきゃ。

「雪?」

私が泣いていることに気づき、零くんがキッチンに入ってきた。

零くんが心配そうな顔を見せる。私の口が勝手に動いていた。