「いえ…。そんなことは……」

紫乃さんのことを思い出し、彼女は本当に死んだ人だったのかと考える。

光さんに笑顔を向け続けるしかできない。

「あの…その栞、よかったらもらってください」

光さんの言った言葉に、私は驚き栞を見つめた。

「紫苑の花言葉をあなたにあげます。このカフェは無くなってしまうけど、僕はここを忘れません」

「ありがとうございます。でも……」

光さんは栞を私の手に握らせ、言った。

「読者が趣味でしょう?僕ができることは、これくらいしかありませんから」

「……ありがとうございます」

このカフェを、こんなにも愛してくれる人たちがいたんだ。花束や栞、他のお客さんからもらったものを見つめ、コーヒーにさらさらと砂糖がこぼれていく。

今まで、人の優しさから目を背けていた。見つめることができなかった。

だって、私は愛されない。好きになった人からも、先輩からも、両親からも愛されない。

そのことを忘れて浮かれて、また傷つくのが怖かった。だから、ずっと信じられなかった。