「…いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」


今日もまた、いつも通りの決まり文句。

ハンディターミナルを持ったその人は、マニュアル通りだと思われる接客用語を愛想なく口にした。



「あの、…イチゴのショートケーキひとつ」

「…かしこまりました」



対する私も決まり文句を口にすれば、彼はニコリとも笑うことなく軽く頭を下げてその場から離れていく。


彼のことで知っていること、といえば。

同じ高校に通う一つ上の先輩、ということと…

あとは、名前。

バイト中は、“瀬野(せの)”と書かれた名札をエプロンに付けているから苗字だけは知っているんだ。

他には、えっと……

パッと思い浮かぶのはその二つくらい、かな。