まるで時間が止まったみたいだった。
先輩の髪に触れたまま、視線はしっかり先輩と絡んでいて目も、手も、心も。全部離すことができない。離したくはないと、心の底からそう思った。
「あのさ…俺、お前のことずっと前から知ってた」
「え…」
「あそこでバイト始めた頃から知ってた。いつもケーキばっか頼む変な奴だと思ってたから」
「うっ…やっぱりそうですよね」
「でも、毎回美味そうに食うお前を見てる内に……なんつーか、気になって気付くといつも目で追ってた」
「それって…」
これは、夢なのだろうか。
私が先輩のこと気になっていたように、先輩も同じように私のことを…
「だから春にうちの高校の制服着て店に来た時は、らしくもなく心の中でガッツポーズしてた。クソダサイ」
「ダ、ダサくてもいいんです!先輩のそういうとこ、もっともっと知りたいです」
「そう?じゃあ他にもダサエピソード言うけど。お前が入学してすぐの頃、うちのクラス覗いてて焦った。で、なんかテンパって隣の席の奴が読んでた本奪って必死に読むふりとかして。クソダサイパート2」
「ふふっ…」
「あと、よく一緒に来てるギャルっぽい子がお前の名前呼んでるの聞いて名前も知った。忘れないようにその日は“美梨”ってブツブツ呪文みたいに言ってた気がする。以上、クソダサイパート3&キモエピソードでした」
「ふふふっ……」


