バイト中に、聞かれてもいないことをペラペラ口にする客は迷惑でしかないのだろう。
必死に自己アピールする私に、先輩は相槌を打つわけでもなく、心底どうでもよさそうな顔を見せたからそう思った。
気を取り直すように先輩がひとつ咳払いをして、再び私に問い掛けるのは、いつもの決まり文句。
「で、ご注文は?」
いつもの私なら、決まり文句で返すのだけど…違う。今、私が欲しいのはイチゴのショートケーキなんかじゃない。
「先輩のこと、たくさん教えてくれませんか?どんなに些細なことでもいいですから!」
「……はっ?」
感情が昂りすぎてガタッと勢い良く席を立てば、先輩も勢い良くズザッと後退りする。
そんな反応を見て、しまった…がっつきすぎた。と、気づいた時にはもう後の祭り。
所詮先輩にとって私は、誰お前?レベルだろうから急にこんなにガツガツ行っちゃったらドン引きされて当然なのに。
「そ、それが今日の注文ってことでお願いします!」
でもね、走り出した気持ちは止めることなんてできないんだ。
常識だとか秩序だとか、そんなことは気にしていられない。だって恋は盲目だから。
この気持ちを、消してしまいたくないから。


