※希李※
「おーい。希李!」
教室の後ろの方から声がして、振り向くと翔太が教室のまどから顔を出していた。
「何?どうしたの?」
って聞いてみたけど答えはわかりきっている。
「ねえ現代文の教科書貸して」
やっぱり。
「貴一に貸してもらってよ」
「今日は貴一は貸してくれなかった。不機嫌だよ貴一w」
(そんな情報求めてねーよ!)
結局教科書を貸してあげた。自分で持ってきたらいいのに、どうせ寝るしーとか言って毎日誰かに借りている。
翔太は馬鹿なんです。自分で持ってくればその借りに行っている時間でさえも寝られるのに。
〜放課後〜
私と貴一と翔太は制服のままジムに向かう。
ジムへの道筋も貴一と翔太が揃えば騒がしい。
今日は紙飛行機の折り方で揉めている。
「先を折れ!危ねーだろ」
「折ったらすぐ落ちるじゃんか!嫌だ」
「いい加減にしてよ。どっちでもいいわそんなこと」
今日は貴一の勝ち。珍しく翔太が折れた。
普段はこんな感じで騒がしい二人だけど、これからこの二人は人が変わる。
ジムにつくと、2人はワーワー言いながら更衣室へ消えていく。私は教官室へ急ぐ。
二人はトレーニングウェアに、私はジャージに着替える。5時になるとブザーがなる。それを合図に、今ジムにいる人たちが、教官室前に集まる。
今日の2人は半袖のアンダーウェアにハーフパンツを履いている。アンダーの上からでもうっすら見える筋肉がほんとにかっこいい。
実を言うと、私の初恋はボクシングをしている貴一だった。今は多分好きじゃない。
みんな集合すると、コーチの淳さんが今日のメニューをみんなに告げる。そして挨拶のあとそれぞれ筋トレから始める。これが始まると私も同時にハードなスケジュールがやってくる。
まず、水やスポーツドリンクの買い出し。
2リットルのペットボトルを3本ずつ。自転車に乗せて運び込む。
次に、また自転車で貴一の弟たちを迎えに行く。
春貴、幸貴、大貴。春貴と幸貴は自転車をこげるから、私の後ろをついて来るシステムで、大貴は自転車のハンドルのとこにある椅子に座らせ連れて行く。貴一の家は近いから、小学5年の時からこの仕事をまかされた。このしごとは癒やしだから全然苦じゃない。
その次に、タオルの交換。汗を拭くタオルは全部ジムのもの。だから、2時間経つごとに籠の外に出ているタオルを新しいタオルに変えないといけない。
その後、更衣室の掃除。本当は男子更衣室だからわたしは入っちゃいけないけど、もう長いことやってるから慣れちゃって、入ることに抵抗を感じなくなった。掃除機をかけて、ゴミを回収するのが私の最後の仕事。
これが終わると後は皆をぼんやり眺めるだけ。
目の色変えて、汗を流しながら練習してるかっこいい2人を見てるとなんか幼馴染でよかったって気持ちになることがある。
なんだかんだでこれで一日が終わり、毎日おんなじことが繰り返される。〜1ヶ月後〜
私はいままでと同じように、学校を終えてジムにきて、せっせと働いていた。でも今日はやけに眠くて、時間がどんどん過ぎて気がつくともう8時前だった。私は、まだ回収したタオルを洗っているところで、いつもならもう更衣室の掃除をしてる時間。慌てて階段を駆け上がり、更衣室の掃除を始めた。なんにも考えず掃除機をかけていると、急に後ろから引っ張られて転けた。
「イッタ‥なに誰?」
振り向くと上半身裸で仁王立ちしてる金髪の見知らぬ人が立っている。
「え?誰??」
私はだいぶ困惑してキョロキョロしてると
「こっちのセリフ。なんでここにいんの?お前女だろ?気持ちわり」
「え?だってこれ私の仕事‥」
「は?」
私は落ち着くために外に出ることにした。
(え?誰?ここのジムの人じゃないよね?)
ゆっくり階段を降りて、いつもの椅子に腰掛けた。しばらくすると、金髪の人が降りてきて私を睨んだ。(うわ!怖い‥)目が合うと素っ気なく振り返って淳さんのところへ歩いて行った。
(何なのあの人。怖いし、金髪だし)
その後、金髪少年はみんなと一緒に練習を始めて馴染んでいて、1時間経つ頃にはすっかり忘れていた。10時を回ると練習が終わり、ぞろぞろと更衣室へ入っていく。
「喜李ーちょい待っといて!一人嫌やから」
「早くしてよー」
翔太が声を張りながら、更衣室へ入っていくと、ジムの中は静かになった。
「喜李ー明日ドラッグストアでアミノ酸買ってきて!もうねーから」
教官室の中から淳さんの声が聞こえた。
「エーなんで?淳さんいっつも行ってるじゃん!」
「明日は行けないんだよ。」
「なんで?」
「だって、朝日の指導しないといけん」
「誰それw」
「あれ?喜李知らんかったっけ?」
「うん」
「今日金髪のやつおったやろ。アイツが朝日」
「‥あっ‥」