私と由佳は昔から、久しぶりに会うと、最初は無言。
何故か緊張みたいなものがあって、お互い言葉が出ないんだ。
親に「遊ばないの〜?」と言われて徐々に普通の空気になって、帰る時には、「今日一緒にご飯食べに行こう!」と、2人で親にお願いするのがお決まり。
2年生の初日も、そんな感じで一言も喋らなかった。
でも、次の日に私が声をかけたら、由佳は休み時間の度に私の所に来てくれるようになった。
いつの間にか私は、移動教室や休み時間、いつも由佳と過ごすようになっていた。
由佳との毎日がすごく楽しい。

2年生になって初めての美術の授業。
今日は、文化祭に飾る絵のアイディアを考える時間。 美術の先生はあまり注意しないし、みんな、好きな友達のところに行ってお喋りしながらアイディアを考えてた。
私の席には由佳が来て、恋バナが始まった。
「真珠、好きな人は?」
「今は…いないかな。」
「そっかぁー。」
私に好きな人なんていない。
いつでも彼氏がいる由佳とは正反対に、告白したこともされたこともなければ、彼氏だって出来たことがない。
いつも友達と“恋バナ”ってやつをしてるけど、友達の相談や惚気に頷くだけで、私は自分の話なんてしたことがない。
「好きな人できたの!」なーんて言われても、『好き』ってなんなのか分からないから、本当は共感もできない。
由佳の質問に、「今は…いないかな。」なんて答えてるけど、『今は』じゃなくて『ずっと』だ。
「じゃあ、作ろうよ!」
なんて軽々しく言ってくる。
「どうやって?」という私の質問に答えないまま、
「ねーねー!」
と、由佳の目線は隣にいた中田 祐輔くんに向いていた。
「真珠のことどう思ってる!?」
え?え?えぇえええぇぇええええぇぇえ!
「ちょっと由佳、何聞いて…」
私は由佳を止めようとしたけど、優しい落ち着く男の子の声に遮られた。
「真珠って?」
彼は、私の存在を知らないらしい。
たしかに、彼は、旭岐小学校の卒業生だし、話したことはないから。
「この子だよ!新木 真珠!私の幼なじみ!」
由佳は私の肩をポンポンと叩いた。
「あぁ。真珠ってゆーんだ。よろしくね!真珠!」
へ?きゅ、急に名前呼び!?
フレンドリーな人なんだなー。
「よろしく…お願いします。。」
緊張して、声が小さくなる。
「で?真珠、どお?可愛いよね?」
だから由佳。やめてよ。
「由佳やめ…」
また、私の声は遮られた。
「えー?急に言われてもなぁ〜。」
中田くんは、頭に手を当て困っている。
「えー。じゃあ、祐輔の好きな人は?居ないの!?」
ねーねー。と、しつこく聞く由佳。
「居ない。」
「このクラスで、1番可愛いと思う女子は?」
「言わない。」
「え〜。じゃあ、ここに書いてよ!」
と、由佳はノートの切れ端を中田くんに渡す。
え〜。と言いながらも、中田くんは文字を書いている。
その紙を私に渡してきた。
「見ていいの?」
うなずかれたので、見てみた。
『由佳』
「へ〜」と、笑って誤魔化したけど、なんか胸がチクチクする。
多分、私と正反対な由佳が、こうやって男の子にモテてるのを目の当たりにして、嫉妬してるんだと思う。
私も誰かに好きになってもらえたら、『恋愛』とやらができるのかなぁ。
「見してよ〜!」と由佳が騒いでるけど、私はぼーっとしていて紙を取られたことに気づかなかった。
「おい真珠!何渡してんだよ!」
中田くんが慌てて由佳から紙を取り上げる。
「あぁ!ごめん!」
中田くんの顔は真っ赤だ。
「ねぇー。なんで由佳には見せてくれないのー?」
ニコニコしてるから、きっとその紙に書かれているのが自分の名前だということに気づいているんだろう。
だから、紙を見せてもらえなくても満足そうに、「真珠、教室戻ろ!」と、言ってくる。
騒いでるうちに、授業終了のチャイムがなったらしく、私は由佳に腕を引っ張られて廊下にでた。
廊下を歩きながら、由佳が私の顔を覗き込む。
「ねぇ!祐輔、どお?」
「うん。。いいと思う。優しそうだし。…」
「え!?好きになった!?」
「いや、そういう訳じゃ…」
「キャーーー」と高い声を出しながら、由佳は1人で先に走っていってしまった。
もお。由佳はいつもそう。人の話ちゃんと聞かずになんでも勝手に理解しちゃう。
私が教室に戻って、「由佳、さっきのは、」と言ってももう遅い。
「真珠ちゃん!祐輔のこと好きなの〜?」
「真珠!!中田くんのこと好きなんだってね!」
あっという間に『新木真珠は中田祐輔のことが好き』という噂が広まっていく。
「違うって!」という否定の声は、みんなには届かない。
「もお由佳〜〜」
「いいじゃん!頑張って、祐輔を真珠のものにしちゃおうよ!」
そんなこと言ってくるけど、ほんとは由佳は期待してるはず。
祐輔が可愛いと思ってるのは自分で、自分のことを好きかもしれない、と。
由佳は彼氏がいるっていうのに、いつもそう。
私のことをほんとに応援してるんだかしてないんだか。
「だからね、由佳。私には好きな人なんてできないの。しかも、中田くんを私のものにするって、そんなこと絶対無理だから!!」
私の声が怒り気味だったんだろう。由佳が珍しく、
「ごめんごめん。」
と謝ってきた。
でも、今由佳に言ったところで何も変わらないんだよな〜。
クラスのみんなに噂は広まってるし。
も〜。最悪だ!