海べの街から帰るとき、少女はいつも、楽しい気もちいっぱいでした。それが今日は、悲しい気もちでいっぱいでした。どうしたらいいか、わからないくらい涙もでました。
 気がつくと、海べの街は、とうにすぎ、森の中にはいっていました。悲しくて、悲しくて、涙は、まだとまりませんでした。
「おかえりなさい。どうしたの? 海べの街は、楽しくなかったの?」
 窓辺にあそびにくるリスが、声をかけてきました。いつもは、楽しいへんじをするのですが、少女は涙で何もこたえられませんでした。
「海べの街で、涙がでてしまうようなことがあったの?」
「ううん、なんでもないの。目にゴミがはいっただけなの」
 リスは、ふーん、といったまま、少女のかたにのりました。そして少女にききました。
「いちごジュースを、どうしてかわなかったの?」
 少女は、何もこたえられず、森の中をなきながら歩きつづけました。
 しばらくすると、庭にあそびにくるキツネが声をかけてきました。
「おかえりなさい。どうしたの? 海べの街は、楽しくなかったの?」
「なんでもないの。ちょっと、目にゴミがはいっただけ」
 キツネは、ふーん、といったまま少女のあとについて歩きました。そして少女にききました。
「いちごジュースを、どうしてかわなかったの?」
 少女は、やはり何もこたえられず、森の中をなきながら歩きつづけました。
 しばらくすると、道のまえから、大きなひとかげがあらわれました。少女は、びっくりして立ちどまりました。大きなひとかげは、長くてとてもふかいみどり色のマントをきていました。
 森のかみさまでした。少女は、こわくて、こわくて、涙もとまってしまいました。足がぶるぶると、ふるえていましたが、リスとキツネは、ぴょーん、と、とんでいきました。
「森のかみさま!」
「森のかみさま!」
「みなさん、どうしたんですか」
 とてもやさしい声で、森のかみさまは、こたえました。
「海べの街に、おつかいにいったのに、大すきないちごジュースを買ってこなかったの。おかしいわ」
 リスが、いいました。
「海べの街から、帰ってきてから、ずっと、ないているんです。目にゴミなんかはいってないのに。きっと、何かあったにちがいありません」
 キツネが、いいました。
 少女は、リスとキツネが、森のかみさまと知りあいなのにおどろきました。リスとキツネに、しんぱいをかけていたことも知りました。
「なんでもないんです。いちごジュースは、買うのをわすれてしまっただけで、涙がでたのは、歩きつかれて足がいたかったからなんです」
 少女は、うそをついてしまいました。なぜなら、そまつなみどり色のスカートをばかにされて、いちごジュースを売ってもらえないとわかったら、おばあさんが悲しい思いをするとおもったからです。