お母さんは私に椅子に座るように言った。
「風嘉はおばあちゃんのところで誰かに会ったの?」
私は静かに頷いた。
「そう。誰に会ったのかな?」
なかなか出ない声を絞り出して言った。
「雪の…王子様…」
そう言うと、お母さんは一瞬びっくりしたような表情をし、それからまた微笑んだ。
「お母さん…私、ね…」
戸惑った。
本当に言っていいのか。
自分でそれを、認めていいのか…
認めるのが、怖かったから…
“記憶が欠けてる”って。
けど…
「ナツキに会ったの…夏生に…」
それよりも…
それよりも分からないままの方がいやだって思うんだ―…


