《聖女決定の儀》の日からから3日後、ようやく彼女の両親が帰って来た。
二人は疲れている様子だ。
まあ3日も家じゃない場所で過ごしたら疲れるだろう。
俺はさほど気にしなかった。

「ハナはどうしたんですか?」

そう尋ねると彼女のお母さんが答えてくれた。

「ああ、ハナは…」

「どうしたんですか?」

「いえ、なんでもないの。そうそう、君にハナから手紙を預かってたんだわ。」

「手紙?」

彼女かららしい手紙をもらった。
花柄の便箋で開かないように多重に魔法がかけてある。

「もちろんだけど、私たちに開けることはできないの。あの子、本当に魔法が上手だったから…」

「そうですね…」

なかなか頑丈そうだ。だが、時間をかければ開けられないこともないだろう。

「ありがとうございます。家でじっくり読みますね。」

お礼を言って自分の家に帰る。

「さて、」

俺は彼女がかけた魔法をひとつひとつ解除していった。

はじめは簡単だった。
魔法書に載っているような単純な封印魔法がいくつか重なりあってごちゃごちゃしているだけだったので解除魔法でほどいてやるだけでよかった。
問題は中頃発生した。
見たことも無いような魔方陣が出てきたのである。
解除魔法の手をいちいち止めて解析魔法をかけ、それが何なのかを突き止めないと解除できないようになっていた。

「あいつ…心を折りにきてやがる…」

その作業は実に面倒くさかった。
だけどあの彼女が手紙を出すというのはきっと帰ってきていないのと関係がある。
そう信じてひたすら解除していった。

呪視した封印魔法も残り数個となった頃、俺は完璧に行き詰まっていた。

「おい…ハナよぉ…!お前新作の封印魔法使ってんじゃねえよ!」

そう、どこにも載っていない、誰も知らない、完全なる彼女のオリジナルの封印魔法の前に俺為すすべなく突っ伏していた。

「明日にしようか…」

辺りは夕日に照らされ、赤く輝いている。
ブリスやソルテなどたくさんの鳥が自らの巣へ戻って行く。

彼女が3日も帰らないなんておかしい。
手がかりとなるのはこの手紙のみ。

「くっそ…」

俺は天才に挑むことになる。
彼女が10の力でこの魔法を組み上げたとしたら、俺は50の力で解かねばならない。

「アイツ、俺がどんなに大変だか、知らねえんだろうなあ。」

彼女の才能と俺の努力の一騎討ちが始まった。