ビーサイド


呼吸をするのも忘れるくらい、私は彼らの演奏に心を持っていかれてしまった。

アップテンポな曲調なのだが、白石さんの歌声は切なく響いて、そのバランスが絶妙に心地よく感じる。

ロック、ってもう少し激しいような暑苦しいような、そういったイメージを持っていたが、彼らの音楽はそうではなかった。
以前洋介から借りたCDを聴いたときとは、全く違う感情であった。

ただ、贔屓目に見ているのも少なからずあるのかもしれない。

そうは思っても、リハーサルだという彼らの演奏で、すでにこの心はこの音楽が好きだと言っていた。

― ひょっとして、すごい人に声を掛けられたのではないだろうか。

正直に言えば、彼のルックスに惹かれて。
そのうえ洋介に捨てられた、というショックに後押しされる形で、安易にここに来てしまったが、その自分の単純さに感謝すらした。

もっと聴いていたい、そう思った頃には演奏は止まり、

『本番もよろしく』

マイクを通した白石さんの声がした。

純粋に思う。かっこいい。

先ほど色めきだった女性たちに、謝りたい気持ちだ。
きっと彼女らも、白石さんの顔だけが好きってわけじゃないのだろう。

顔も良くてスタイルも良くて歌も上手くてギターも弾けて。
そんなのモテないわけがないよな。

こんな悲惨な誕生日を憐れんだ神様がくれた、つかの間の幸せなのかもしれない。

フロアの照明が落ちてステージが青く照らされたとき、私は観客たちに合わせて手拍子をしていた。

彼らがステージに姿を現すと、その手拍子は拍手に変わって、観客たちの大きな歓声が響く。

しかし白石さんは、そんな観客たちの期待のこもった声や拍手がまるで耳に入っていないかのごとく、終始下を向いたまま、ギターを肩にかけてマイクの前に立った。

そして何の言葉を発することもなく、アカペラで歌いだしたのだ。

予想に反した始まりに、私ははっと息をのんだ。

― どうしよう。すごい。

興奮でもあり感動でもあり、でもそれとは少し違うような、名前のつけがたい感情が湧き上がる。

一拍後、一斉に鳴らされた楽器の音がなお一層感情を高ぶらせた。

『Besaidです、よろしく』

息が詰まった。
もうかっこいいしか言えない。