ビーサイド


「じゃあ、俺出番あるからここで見ててね。」

後方の壁際に連れて行かれて、私はそこにもたれかかるようにして立った。

「終わってもここいてね?迎え来るから」

さっきからひどい動悸がしているのに、白石さんはそう言って追い打ちをかける。
もう成す術もない。ただ私は頷くのが精いっぱいだった。

白石さんはまた入口の方へと消えていったが、後ろの方にいた女性たちが一瞬色めきだったのがわかる。
それはあのルックスだし、女性ファンも多いのだろうな。

先ほどまでのバンドの演奏が終わって、ステージは暗く、反対にフロアは明るくなった。

低い天井、熱気に包まれたフロア。
ざわざわと周囲が前方に向かって動き始める。

“次きっとビーサイだよね”

そんな声がどこかからか聞こえた。
観客たちは演者の順番を予想しているようで、一体何組のバンドが出ているのかすら知らない私は、ここのマナーというものがわからなかった。

ロックとかパンクの音楽には無縁だった青春時代。
聞いていたのは、もっぱらアイドルソングであった。

洋介は一時期ものすごくはまっていた時期があったが、そのときに借りたCDもなんというかピンとこなかったことを覚えている。

言われるままについてきてしまったが、そもそもこういう音楽は私にはわからない。

― 大丈夫だろうか。

そんなことを考えていると、観客たちが突然、わっと声を上げた。

ステージに目をやると、そこには白石さんたちの姿があった。
総じて身長の高いメンバーが多いのだろうか。
先ほどのバンドに比べて、いやにステージが小さく映る。

『リハやりまーす』

白石さんではない誰かの声で、観客たちは歓喜の声を上げ、前方に人波が押し寄せた。

白石さんがギターをかきならす素振りは、私にとってはあまりに非現実的すぎて、胸が強く高鳴って仕方ない。
アイドルのコンサートに行ったときだって、ここまでじゃなかった。

咄嗟に胸のあたりを押さえて、じっとステージを見つめる。

彼の顔がマイクに近づいたとき、この高鳴りはピークを迎えていた。