「洋介も幸せになってね」
「おう」
幸せになるのがお互い違う相手とだなんて、改めて考えたらとてつもなく悲しくなった。
だけどやっぱり、私の涙を拭ってくれた洋介の手の温もりは、私の欲しいそれではなかった。
「先行って。気を付けて帰れよ」
最後の最後で、私は洋介に抱きついていた。
涼くんよりも厚い胸板、シャツの匂い。
私はそれが大好きだった。
私に恋を教えてくれた人。間違った愛し方を教えてくれた人。
「…じゃあね」
もう振り返らない。
12年という、これまでの人生の半分ほどをともに過ごした洋介と、本当にこれでお別れだ。
もう間違わないように、洋介との時間は別の誰かに出会うための時間だったと思えるように。
私は彼を過去においていく。
「…もう…だめだなぁ…」
独りマフラーの中で呟いたその言葉はひどく胸に響いて、もう立っているのもやっとであった。
涼くんとも別れ、洋介とも別れ。
とうとう本当に、私は独りきりになってしまった。
クリスマスらしいイントロの流れる駅構内を早足に歩き、私は電車に乗り込んだ。
そしてそのまま、実家に帰ることにした。
洋介との思い出、涼くんとの思い出に溢れかえるあの部屋に独りでなんて、とても帰れそうになかったから。

