ビーサイド


「……まあ…そもそもは俺だよな」

洋介はしばらくして、重い口を開いた。

「困らせてごめんな」

私の頭を撫でたその手は、あまりに懐かしかった。
恋愛感情はなくたって、洋介は私にとって特別な存在で、それは嘘なんかじゃない。

「私も…ごめん。ほんとにごめん」

そんな人に対して、あまりに自分は不誠実だった。
洋介を選ぶ理由はたった1つ、結婚のためだけだったから。

いつからこうなってしまったんだろう。
ちゃんと私は彼を愛していたはずで、彼もまたそうであったはずなのだ。

その証拠に、目の前の洋介は目に溜めた涙をこぼさないよう、何度も天を仰いでいる。
私もまた涙がこぼれないよう、興味もない大画面のモニターに目をやったりして。

嬉しそうに腕を組んで歩くカップルを見ては、自分たちにもあったあんな頃を思い出していた。

「ありがとな」

あの頃の私たちは、まさか自分たちがこんな風になるなんて考えもしなかった。

「こっちこそ…ほんとに、ずっと、ありがとう」

ずっと一緒にいようね、それがお互いの口癖だった。

職員室の前で初めて言葉を交わしたあのときの高揚、諦めかけたときに言われた好きという言葉、初めて触れ合った彼の手の温もりも、ある日突然呼び捨てにされた名前にときめいたこと、帰り際のホームでぎこちなくされた初めてのキスも、やっと1つになれたあの日のことだって、感情の何一つ取りこぼすことなく、私はそれを覚えている。

だけどそれがいけなかったように思う。
その時々で、目の前にいる洋介をまっすぐに見つめられていたら、きっと彼は浮気なんてしなかった。

「…幸せになって」

こんなにまっすぐに私の目を見つめてくれる人を、私のために泣いてくれる人を、どうしてちゃんと愛せなかったんだろう。

視界が滲んでいく。