ビーサイド


しかし、やっぱり彼といると事は想定通りに進まない。
それは突然にやってきた。

「朱音さん」

「ん?」

「俺たち、もう会うのやめよっか」


涼くんの腕の中で言われたその言葉に、耳を疑った。
ついさっきまで一緒にカレーを食べて、お風呂に入って、彼の熱に絆されて、彼の腕の中で眠りにつこうとしたそのときになって、まさかこんなことになるなんて普通誰が想像するだろう。

顔をあげようとするが、涼くんは私が動くたびに腕の力を強めて、それを許してくれない。

「やだ」

「…こういうときは素直なんだね」

そう言って彼は少し腕の力を弱めた。
確かに、自分にしては相当に素直な言葉であった。


「……涼くんのこと好きなの」


どうしても彼を繋ぎとめたかった。


「知ってるよ」


その言葉と同時にきつく抱き締められると、どうしてだか私は別れを確信していた。
もうきっと何を言ってもだめな気がする。

案の定彼は、若菜さんの話を始めた。

「19のときに知り合ったんだ。ライブハウスで働いてて」

涼くんの話によると、若菜さんは自分の8つ年上で当時上京したばかりだった彼には、ザ東京の女、という風に見えたらしい。

「で、付き合ってたんだと思う。たぶん。でも1年もしないうちに急に帰ってこなくなって」

聞きたくもないその話を淡々と話す彼の意図は、きっとつまり本物がいいということなんだろう。

やっぱり私の目はカラカラに乾いていた。