渋谷駅で京王線に乗り換え、下北沢駅で下車した。
東京出身ではあるが、古着とかサブカルチャーとかそういったものを通ってこなかった私は、下北沢へ来たのはこれが初めてである。
その話を白石さんにすると、彼は目を丸くして驚いた。
「俺は田舎者だからさー上京して即来たよ、下北!」
― 上京、ということは彼の出身地は東京ではないのか。
どこの出身なのだろう。色が白いし東北っぽい感じもするな。
「田舎の中でもちょっと栄えてるとこっていうの?静岡の原宿!みたいな。そういうところって一応あるんだけどさ、下北はないよ。ここにしかないって思う」
目を輝かせた横顔に、つい見とれてしまった。
下北沢はバンドマンにとっての聖地のような場所なのだろうか。
残念ながら私の目には、そういう特別な景色には映らなかったが。
白石さんについていくと、先ほどまでの賑やかな通りから一本入った細い路地に立つ、白いビルの前で立ち止まった。
「あーやば。絶対怒られるんだよねぇ」
やばい、なんて言っている割に涼しい顔して、感情の読みにくい人だ。
地下への階段を降りていくと、次第にドンドンという重低音が聞こえてくる。
ライブハウスなんて初めて来たものだから、緊張と好奇心のせめぎ合いで私の胸はドクドクとうるさかった。
「ライブハウスも初めて?」
振り向いた彼に見上げられると、緊張とも好奇心とも違う感情が一気に押し寄せた。
ちょっと、あまりに自分が単純すぎて嫌になる。
「うん、初めて。緊張してきた」
「なんで緊張すんの」
白石さんは笑った。
明らかに重そうな扉の前で立ち止まった彼は、心の準備できた?といたずらに私の顔を覗く。
「はい、大丈夫。大丈夫です」
そんな顔で覗き込まれては、まったく何も大丈夫ではない。
5つも年上であるのにそんなことでドキドキしてしまう自分を悟られたくなくて、慌ててそう答えると、その扉が開かれる。
その瞬間、私の体には衝撃が走った。

