ビーサイド


「朱音ちゃん!彼氏できたの!?」

こちらの気も知らずに、慎太郎さんは目を輝かせてそう聞く。

「いや、違くて…高校の先輩」

一応、嘘ではない。

洋介は、軽く慎太郎さんに会釈をした。

「なんかめっちゃお似合い!大人カップルって感じ!」

ライブ終わりということもあってか、慎太郎さんのテンションはあの合コンのときよりもずっと高かった。

あははと乾いた笑いを浮かべていると、人だかりの中から理久もこちらへやってくる。

「慎太郎の声ほんとうるっさいわ」

そう言いながら、理久は洋介に邪魔してごめんなさい、と謝った。

その間も私の目はずっと涼くんを見つめていたが、涼くんはまったくこちらを気にしている素振りもない。

「京都って言ってなかったっけ…?」

必死に平常心を保って理久にそう尋ねる。

「火曜に終わったよ。今日がラストだったんだ」

理久もまた、洋介のことを彼氏なのかと聞いたが、それを否定すると、明日の時間や場所を指定してきた。

「涼~朱音ちゃん彼氏出来たって!」

慎太郎さん、もしかして酔っているのだろうか。
今さっき彼氏じゃないと言ったはずなのだが。

しかしそれを涼くんにあえて言うあたり、確信犯な感じもした。
慎太郎さんはたぶん私の気持ちに気付いていたから。


「友達なの?」

洋介が若干不機嫌になっている。
この人もまた私と同じで、すぐ顔に出るタイプなのだ。

「うん、つい最近知り合ってね…バンドやってるんだって」

「ふーん。朱音そういうの聞かなかったのにね」

昔洋介に借りたCDをあまりよくなかったと言って返したことを、彼は覚えているらしかった。

とにかくこの場を一刻も早く去りたい私だったが、涼くんがこちらに向かってくるのが見えて、身動きが取れなくなった。

実に3週間ぶりに見た彼の姿は、さっきまで洋介に向いていた心をいとも簡単に引き戻す。

やっぱり違う。
洋介に対してとは違う胸の高鳴り方に、皮肉にもこんな場面で、私は涼くんに対する想いを認めざるを得なくなった。