ビーサイド


ここのコース料理は、アラカルトメニューから好きなものを選ぶことが出来る。
甲殻類に始まり、苦手な食材の多い私でも食べられるようにと、洋介が見つけてくれたお店なのだ。

「最初スパークリングでいい?」

メニューから不意に顔を上げたその顔が、なんだか急に大人の男に見えて、少しだけドキッとしてしまった。
きっとスーツマジックと、店内の柔らかな照明のせいだったろう。

「朱音のおいしそう」

私が頼んだ前菜を見て、洋介は一口くれとせがんだ。
まったく昔から変わらない。すぐ人の物を欲しがるのだ。

「はい」

仕方なく一口分を差し出すと、フォークを私に持たせたままそれにかぶりついた。

「……うま」

慣れないことするものだから、そう言った洋介の顔は少し赤くなっていて、それにつられてこちらまで顔が熱くなった。

「恥ずかしがるならやんないでよ」

そんな私たちは、もう何年振りだったろう。
急に気恥ずかしくなってきた。

絶妙なタイミングで運ばれてくる料理に舌鼓しながら、それに合わせてお酒もどんどんと進んでしまう。
明日が休み、という解放感もあったと思う。

「1週間頑張ってよかったー」

つい開放的になった私がそう言うと、洋介は満足そうに笑って、

「朱音はここ来るといつもそれ言うな」

なんて言う。

そうやってなんでも知ったような顔するから。
私は安心しきってしまうのだ。昔も今も。

― 裏切ったくせに。

必死にその憎しみを思い起こそうとするのだが、なかなかそれがうまくいかない。

本当、私って簡単すぎる。