ビーサイド


待ち合わせ時間ぴったりに吉祥寺駅の改札を出ると、多くの人が行き交う中でも洋介を見つけることは容易かった。

「お待たせ」

「おう」

このやり取りだって、もう何百回繰り返したのだろう。

久しぶりに見た彼は、緩いウェーブのかかった髪のサイドを耳にかけ、いかにも流行りを意識した風貌であった。
今の彼女の好みなのだろうか。

「なんか、雰囲気変わったな」

そして同じことを思われているのも、少し癪に障る。

「洋介も。随分おしゃれで」

あんなことがあったというのに、私たちのこの空気感は以前と変わらない。
並んで歩くと、妙にしっくりきてしまうのが少し切なく感じた。

「ここ久しぶりにいいかなって」

そう言って洋介が入ったのは、2人で通い詰めた、だし巻き卵が非常においしいあの居酒屋。
こんな思い出の場所にあえてくるなんて、どこまでも非常識な奴である。

店内は混みあっていたが、どうも洋介は予約をしてくれていたようだった。
普段からお酒の席が多い彼は、こういうところだけはしっかりしている。

「生でいいよね」

当然のように聞かれ、私はそれに頷く。
なんだかそれが嫌だった。

それから私たちは、全制覇したこの店のメニューを眺めて、食べたことのない物をいくつか頼むことにした。

「あとだし巻き卵」

私が言おうとした言葉を、洋介が店員に言った。

だし巻き卵はここの看板メニューだから。
それだけのことだ。

「これは頼まないとな。看板メニューだから」

― もう口を開きたくない。

私が思うことと洋介の思うことは、やっぱりどこか似ている。
それは12年も一緒にいたら当然のことかもしれないが、なんだか嫌で仕方なかった。