ビーサイド


翌朝、十分に2人が寝れるスペースのあるダブルベッドなのに、いつも通り涼くんの腕の中で目が覚めた。

まるで抱き枕のように彼に抱えられている。
いつの間にかこれが私たちの定番になっていて、私はこの体勢がすごく落ち着く。

「おはよ」

その声に振り向くと、まだ寝ぼけ眼な彼がいた。

「おはよ」

目にかかる前髪を分けてあげると、彼はくすぐったそうにはにかむ。
“若菜さん”とも、こんな甘い時間を過ごしていたのだろうか。

そんな思いを打ち消すように、私のスマートフォンが振動した。
偶然彼の枕元にあったその画面には、【武藤 洋介】の文字。

「…出ないの?」

固まっている私に、涼くんがそれを差し出す。

突然のことに心の準備が出来ていなかったが、とりあえずベッドから起き上がり、言われるままその着信を取った。

「もしもし」

「久しぶり。寝てた?」

久しぶりに聞いた懐かしい声。
奇しくも洋介には、たった一言で私が寝起きだということがわかるようだった。

「いま起きたとこだけど。何?」

少しだけ苦しくなった胸を押さえながらそう聞く。

「…夜、会えない?」

若干の間があった後、洋介はそう言った。

今更なんだとも思ったが、たぶん家賃のことじゃないかと心当たりもあった私は、彼に会うことを決心した。

「じゃあ18時に吉祥寺で」

そう約束して、電話は切れる。

吉祥寺。それはお互いの家のちょうど中間地点だから。
それ以外の理由はないはずなのだが、吉祥寺は私たちの初デートの場所でもあった。

どうでもいいのに、そんなこと。

ベッドでごろごろしている涼くんの姿を横目に、私は何を着ていこうかなんて考え始めていた。