「ねー理久のこと、好きになった?」
ケトルに水を汲んでいると、突然隣に立った涼くんが聞く。
見慣れた姿なのだが、自分の部屋に彼がいるというのは、またいつもとは違う光景に見える。
「好きって今日会ったばっかりだよ」
「…じゃあこれから好きになりそう?」
― あざとい。
でも若菜さんの存在が確かになった今、私は騙されない。
「好きになるかもしれないね」
決して彼のあの瞳には捕まらないように注意してそう答えた。
でもそれは本当のことだ。
これから私は涼くん以外の誰かを好きになって、結婚する。
それが私の望む未来なのだから。
「そしたら俺ら会えなくなるよ」
近づく唇に、私は目を瞑った。
結局彼は、私じゃない。
若菜さんにそっくりな私と離れたくないのだ。
「私に合う人紹介するって言ったくせに」
唇の離れた一瞬にそう口走っていた。
「自分だって彼女募集中って言ったじゃん」
酔いが回っているせいだ。
今日の私は妙に強気で、こんなこと言ってしまったら好きだと言っているようなものなのに、抑えが利かない。
涼くんは私の言葉には反応せずに何度も口づけして、それをはぐらかそうとしているように思えた。
「…嫌だったんだよ、理久に触られてるの」
しかしようやく口を開いた彼は、さっきまでのキスとは反対に、優しく私の頬に触れる。
普段いくら飲んでも赤くならない彼の顔が赤くなっているように見えるのは、私の願望なのだろうか。
「俺も彼女つくんないから。まだ一緒にいてよ」
― そんなこと言うなら彼氏になって。
なんて言えない私は、代わりに彼にキスをした。
言葉よりもキスの方が簡単だなんて、本当、おかしな関係だ。

