ビーサイド


涼くんはうちに来たいと言った。

「でも全然片付いてないよ」

「いいよ。うちよりは綺麗でしょ」

彼はそう言うが、“片付け”の意味が違う。
私の部屋には、まだ洋介とのあれこれが残されたままなのだ。

そもそもあの部屋自体、本当は洋介と一緒に住む予定で借りた部屋だった。

別れる2ヶ月ほど前に、2人の通勤にちょうど良い場所に空きが出て即契約したものの、公認会計士で日々残業に追われていた洋介は、引越の準備が間に合わず、私だけが先に引っ越してきたのだ。

今となってはそれも予兆だったのかもしれないと思うが、同棲を持ち掛けたのは洋介の方で、まったく不可解である。

そして1人で住むには高い家賃を、いまだに振り込みという形で折半している私たちも、至極おかしな関係だ。

結局断れなかった私は、涼くんと手を繋いだままその部屋に向かっていた。

「ちょっと待ってて」

慌ててそこら中の写真立てを台所の戸棚に放り込み、9月28日に印のついたままだったカレンダーを破く。
あの日から玄関の棚に置いたままだったペアリングも、ごみ箱へ放り投げた。

「どうぞ」

「お邪魔しまーす」

涼くんは開口一番、広っと声を上げた。
当然だ。無駄にリビング12帖の1LDKなのだから。

2人で住む用に家具も揃えていたため、2人掛けのソファーにダブルベッド、ダイニングテーブルには4脚の椅子が並べられている。
隠しようもないのだが、いささか気まずい。

「同棲してたの?」

そしてやはり涼くんも気づいた。

「…してないよ」

嘘ではない。
それ以上のことはなんだか話す気になれなかった。

これ以上、哀れな女と思われたくなかったのかもしれない。