「理久?」
洋介以外の男性を下の名前で呼び捨てにするのは、きっと初めてだ。
気恥ずかしい思いをしながらも、前に進むために私は彼をそう呼んでみた。
「やば、可愛い~」
その瞬間、理久の顔がぐっと近づいて額と額がくっついた。
「え!?ちょっとちょっと」
「んー?」
― バンドマンってみんな距離感おかしいんじゃないか。
こんなの普通?普通じゃないよね??
今にも唇が触れてしまいそうな距離で、理久は、顔が赤いと笑う。
もはやドキドキしすぎて、眩暈がする。
その時、ガタンと誰かのグラスの倒れる音がした。
「うわーごめん!大丈夫?」
グラスを倒したのは涼くんで、隣に座った亜美ちゃんの服をそこにあったおしぼりで拭いてあげている。
「大丈夫大丈夫」
亜美ちゃんはそう言いながら、見たことのないような女の子らしい顔で笑っていた。
― 見たくないな、これ。
胸がぎゅっと締め付けられる。
「朱音。これおいしいよ」
そう言って理久はレモンペッパー味のから揚げを箸でつまんで、私に口を開けるよう促した。
いわゆる、あーんってやつだ。
「え!?いや自分で食べれるから…」
「あーんは?またおでこくっつけるよ?」
そのルックスでこの行動は反則でしかない。
くらくらしながら、私は言われるままに口を開けた。
そしてほんのわずかに願っていた。
涼くんにこれを見て嫌だと思ってほしい、なんて。

