「え、じゃあ私そこ座ります」
真由子がなぜか挙手して、その男性の前に座る。
あの子そういうキャラだったっけ、と不思議に思っていると、むーちゃんが耳打ちした。
「あの人、ビーサイのドラムの人。真由子大好きなんだよ」
「えっそうなの?」
「朱音にほんとに感謝だよ~これすごいことだよ?」
「…そうなんだ」
なんだか上手く言葉が出なかった。
そして私の前の席には、涼くんが座る。
見える景色に彼がいるだけで、随分と緊張が収まってきた。
「最初何飲みますかー?ビールの人ー?」
よく通る大きな声で、先ほどのアッシュカラーの男性が聞く。
いつも通り手を挙げると、なぜかむーちゃんたちは飲み放題メニューを覗いていた。
― え?
彼女たちは私以上の酒豪なのだが、なぜ挙げない?
「え、むーちゃんちょっと。ビールでしょ?」
「んー?最近弱くなっちゃったから梅酒かな」
白々しい言い方で悟った。
ワナワナした様子の私に耐え切れなくなったのか、彼女は噴き出す。
「もー!」
掘りごたつのテーブルの下で、軽く彼女の足を蹴った。
やられた。
恐る恐る前を見ると、涼くんもまた笑いを堪えきれないといった表情を浮かべていて、顔が熱くなる。
“合コンの1杯目は周りの女子に合わせる”
私は一生忘れてはいけない引き出しに、それをしまった。

