ビーサイド


「えーどうしたの?」

不意に抱き寄せられて内心嬉しいのだが、平然を装ってそう言ってみる。

「朱音さんが言ってた意味、今やっとわかったわ」

「合コンのこと?」

「違くて。ほんとはずっと好きじゃなかったって、泣いてたじゃんあの日」

意味がわかったと彼は言ったが、23歳の彼にはたして本当にわかっているのだろうか。
まだまだ結婚なんて頭にない年齢に思えるのだが。

ただ、あの日私が言った言葉を覚えていてくれたことが、なにより嬉しかった。

「じゃあ…俺が初めてだったの?」

「ん?何が?」

「元カレ以外とキスしたの」

体が離れたと同時に、唇に柔らかい感触がした。
どうしてこの人は、この甘い雰囲気を作り出すのがこんなに上手いのだろう。

そうだと頷くと、案の定彼の手が素肌に触れて、私は彼しか見えなくなる。

それなのに。


「ちゃんと朱音さんに合いそうな人誘っとくから」


彼にとって私は、いてもいなくても変わらない存在のようだ。

― 少しくらい寂しくならないのかな。
なんて不毛なことを考えても無駄だ。

あくまで今の私たちは、やっと“フレンド”くらいの関係になれたところで、そこに愛はない。
私のことを心配してくれるのも、それは友達だから。

恋愛じゃない。


幸いにも、友人たちは案外乗り気のようで、急な誘いにも関わらず全員都合がつくと返信があった。
これで土曜日の開催は決定だ。

「楽しみだね」

そしてダメ押しの一言。

いささか痛む胸にムチを打って、もう私は笑うしかなかった。
まったく、これっぽちも私は彼の眼中にないらしい。