「まだ熱いから、気を付けてね」
白石さんが淹れてくれたお茶は、妙に香りが良かった。
「いい匂い」
私が家で淹れると、こんなに香りが立たないから不思議に思う。
茶葉の違いなんだろうか。
「実は俺ね、お茶屋さんの息子なんだー」
「え、実家が?」
そういえば白石さんは、静岡の出身だと話していた。
しかしこの話題のとき、彼の顔は少し曇ったように見えて、今も彼は笑ってはいるのだが、瞳の奥には何か違うものを感じる。
きっと彼が音楽をやることと関係があるのかもしれない、そんな風に思ったが、それは私が触れるべきところではないのだろう。
「おいしい~」
お茶を一口啜ってそう言うと、白石さんからは予想外の言葉が飛び出した。
「お粗末様です」
きっと実家でこうやってお母さんたちが言っていたのだろうか。
あまりに彼の風貌とは不釣り合いな台詞に、そんな姿を想像してしまったら、私は声をあげて笑っていた。
「なんで笑うんだよー、俺だってこれくらい言えるよ」
そう言って口を尖らせたその表情も、また可愛い。
白石さんは、わざといろんな顔を小出しにしてきているのだろうか。
そんな風に思ってしまうほど、彼の魅力は底知れなかった。
「はい、2回目」
「わっ」
どうやら私は、またも心の声が口に出ていたらしい。
知らない天井が見えたと思ったら、その次には白石さんの綺麗な顔に見下ろされた。
覆いかぶさった彼の顔の距離が恥ずかしいのに、やっぱりその瞳からは目を逸らすことができない。

