ビーサイド


いたずらっぽく笑った白石さんを、軽くグーで殴った。
というか距離がやっぱり近いから、それを引きはがしたいという思いもあって。

「意外に凶暴!」

お腹を抱えて笑う姿は、また初めて見る彼だった。

ここへ来て1時間は経ったと思うが、初めのような緊張は解けたものの、私の心臓の鼓動はずっとずっと速いままだ。

それは苦しいのだが、でも心地良い。
自分がまだ女の子なんだと実感できた。

「もう大丈夫になった?」

白石さんは、先ほど炭酸が強いと言ったレモンサワーを頼んでそう聞いた。
大丈夫か、おそらく私が電車で泣いていたことを指しているのだろう。

「うん、もう今は大丈夫。白石さんたちのライブ見てたら忘れてたもん」

これは割と本当だ。
そもそも電車で泣いていたのだって、自分では理由がよくわからなかった。

「ならよかったけどー。彼氏関係?」

白石さんの手は、右手の薬指にはめられたままの指輪に触れた。

「えー…うんまあ色々あって……」

しどろもどろに答えたが、白石さんはまだ指輪に触れている。

ちょうどタイミング良くレモンサワーが届き、その手が離れたことに安心した。

こんな風に迫られたら、支離滅裂にすべてを話してしまいそうだった。
いくらなんでもまだ人に話せるほど、自分の中で整理出来ていない。

「いいの?彼氏いるのに俺と2人で」

顔を覗きこまれて、息が止まりそうになる。

近い。とにかく距離が近い。
彼の髪がわずかに手に触れて、平常心ではいられなくなってしまう。

「……彼氏、いなくなったから」

漏らした本音に、待ってましたと言わんばかりに白石さんはにやっと笑った。

この顔、さっき耳打ちしてきたときと同じ顔だ。
またさらに胸の鼓動は速くなった。

勿論、自分でも顔が火照っていることは十分にわかっている。